美しい人


美しい人に出会いました。
素敵な人との出会いは、視界を明るく広げてくれます。


彼女は、
日本語教師をしているスリランカ人です。
お年は50代くらいでしょうか。


第一印象は決して良くはありませんでした。
にこりともしないので、むしろ少し怖い印象を受けました。
でも、話をしてみるととても気さくで親切なんです。
私なんかは、とにかくまずは笑顔で無意識のうちに身の安全を図ってしまいますが、
本当に美しい人は笑顔で印象を良くしようとする必要はないのかもしれませんね。


そんな彼女は、いつもとても高いヒールを履いています。
私は彼女より年は若いですが、ヒールは疲れてしまうのでめったにはかないのですが、
そんなところに彼女の美意識を感じます。


若い頃はそれはそれはモテたそうで、
日本人からも何人もプロポーズされたそうですが、
彼女はスリランカの由緒ある家庭の一人娘で、
お婿さんはスリランカ人でなければならなかったそうです。
結果的にはスリランカ人と大恋愛の末に幸せな結婚をしたようで、今も幸せそうです。


彼女は母語の他に、日本語、英語をとても高いレベルで操ります。
さぞかし言語に強い言語専門家なのかと思いきや、
実は彼女は理系。


スリランカは大学の数が非常に少ないため、スリランカ国内の大学に入れるのは、ほんの一握りの超優秀な人だけ。
日本で東大に入るような競争率なので、海外の大学に進学する人が多いのですが、
彼女はスリランカの大学を理系で卒業しているのです。


小さな頃からなぜか日本に興味があったそうで、
彼女にとって日本語はいうなれば趣味だったわけですが、
スリランカで一位の成績をあげて、
国を代表して何度も日本に訪れたそうです。
日本の景気が良かった時代は、数ヶ月間5星ホテル住まいで日本に招かれたりしていたそうです。


天才とはこの人のことか。
そう思いました。
彼女の魅力に吸い込まれるように、ねほりはほり聞かずにはいられませんでした。


4歳から学校に通い始めて、その後2回飛び級をしているそうなので大学の卒業も早かったとか。
勉強は彼女にとってこの上ない楽しみで、苦だと思ったことは一度もないそうです。
楽しくて楽しくて仕方がない。
今でも毎晩夜中まで日本の漢字検定の問題集を勉強したりしているから、
日本の新聞も読むのに困ったことはないそうです。
毎日の通勤時間には、タミル語の勉強を楽しんでいるそうです。


「楽しい」というは何よりも大切なことです。
楽しいに勝るものはありません。
どうやったらそんな人になれるのでしょうか。
「自分の子供がそんな風になるように、子育ての秘訣とかありますか」
と聞いてみると、
彼女は
「私は妊娠中ずっと、朝も晩も、こんなふうな子供になって欲しいなって瞑想のようなものをしていました。そうしたら、私の子供はその通りの子供になりました。勉強も自分で勝手にするし、頭も良かったし。よく、子供を産むのは痛いとか、育てるのは大変とか聞きますが、私はそんな風に思ったことはただの一度もありませんでした。」
と言うのです。
なんて素晴らしい。
「先生がそんなふうになったのは、ご両親が何か特別な育て方をしたのでしょうか」
と聞いてみると、
「そうですね。うちの両親もとても活発で、いつも一生懸命な人でした。朝から晩まで休みなく働いていましたが、私は両親の口から『疲れた』という言葉を一度も聞いたことがありません。両親がけんかをしているのも一度も見たことがありません。子供の前でけんかしなかっただけなのかもしれませんが、でもそんな話はどこからも一度も聞いたことがありません。だから、私がこういう風にいられるのも本当に両親のおかげだなって思います。いつも感謝しています。朝起きていつも一番にすることが、両親への感謝です。」


これを聞いたとき、
なんて美しい人なんだろうって心から思いました。


宮沢賢治風に
「そういうものに私はなりたい」
と思いました。